「総、駿哉」


 揃って顔を向けると、遼が片手を挙げて挨拶した。駿哉が奥に詰めて、遼がその隣に座る。今日は少し肌寒く、遼はジャケットを着ていた。ただ、急いでやって来たのか、頼んだ飲み物はアイスティーだった。


「久しぶりだな」

「だな。最近仕事どうだ?」

「特に変わりなし。たった何週間かで変わるもんじゃないよ、社会人は」

「なんだ、そもそも久しぶりってほどじゃねーのか」


 なんか勘違いしてたな、なんて、遼はちょっと首を捻ってみせる。でも、たった数週間ぶりに会ったのに、久しぶりに会ったような気がしているのは俺もだった。


「まぁ、俺が卒業するまでは連絡も頻繁にとってたからね。高校生のときなんてほぼ毎日つるんでたし」

「だな。よくそんなに毎日会って話すことあったよな」

「ね。何話してたんだろうね、あの頃」


 もう六年も前だね──。そう呟きながら、手持無沙汰にコーヒーカップを掴んだ。振動で揺れた水面に、自分の姿が揺蕩(たゆた)う。

 その、姿は。見ていると六年前の高校生の頃と全然変わらないのだけれど、ふとアルバムを見返すと、やっぱり全然違っている。お互いに髪型をマイナーチェンジしたとか、そんないつでも変えることのできるものではなく、どことなく、なんとなく、年を取った。こうしてみると、高校生の頃って本当に精神年齢通りの見た目だったんだなぁと思う。


「で、遼はどうなの」

「どうって?」

「来週でしょ、修習地決まるの。家の当たりとかつけてるの?」

「全然。無駄骨になりたくねーし、決まってから探す」

「第一希望が通るといいな」

「そうだな。つか駿哉、お前いつか修習行くの?」

「おそらく行く。ただ、タイミングがいつになるか分からんな。休学して行くのが一番いいのかもしれんが」


 話を振られてから漸く口を開いた駿哉は、何年か先を考えるように腕を組んだ。本業はあくまで医者にしたいから医学の勉強から離れがたい、なんてその顔には書いてある気がする。

 その隣で「つかさぁ」と遼が渋い顔をした。


「何回も言うけど、なんで弁護士一本の俺が医者目指してるお前に抜かれてんのかわかんねーわ。お前司法試験受かるの早すぎだろ。ちゃんと大学行ってたのか?」

「行っていたし、別に早すぎることはないだろう。実際、一年生の間は様子を見た」