「なぁ、氷洞」
その帰り道、美岳はなぜか私の隣に並び、二人で話したがるような雰囲気を出した。隣に立つと美岳はそこそこ背が高かった。当然といえば当然だけれど。
「何」
「愛想のねぇ女だなぁ。笑うくらいしろよ」
「美岳には関係ないでしょ。話したいことあるんでしょ、本題は?」
「あぁ、白鴉──烏丸のことだけどさ」
また雪か……。付き合ってるだのなんだのの話だろう。
「お前ら、何かあったんじゃねーの?」
「だから付き合ってないし、付き合ってたこともない」
二年生になって余計に聞かされるようになった話題に、いい加減うんざりしてきた。それなのに美岳は妙に真剣だ。
「そうじゃねーよ。付き合う付き合わないとかそんなもんじゃなくて、別のことあったんじゃねーのかって聞いてんだよ」
「……別のこと?」
「……惚けんならいいぜ、別に。俺もわざわざ引っ掻き回す趣味ねーからな」
美岳の視線の先を見れば、白銀と雪がじゃれあっている。雪の掌でころころと転がされる白銀は、みんなの前だというのに素直に憤慨していた。
「でも、明らかにガチだったろ。烏丸との関係否定すんの」
「あなた達が全然本題に入らないからね」
「お前ら、距離は近いけど、変に距離遠いとこあんだよなぁ」
さすがにその言葉には驚いた。美岳が鋭いのか、私達が分かりやすいのか。
ただ、榊のお見舞いの帰りに雪に触れられたときのことが尾を引いているのかもしれない。思わず自分の腕を掴んだ。
「なーんか、なぁ。最後の一線を許してねーよな」
ま、俺には関係ないんだけどな、と美岳は敢えて突き放すような言葉を付け加えて、下手に首を突っ込む気はないことを、野次馬根性で口にしているわけではないことを表した。
「でも気を付けろよ。お前は青龍幹部の紅一点だし、烏丸の野郎はNO.2で白鴉。白銀がいなきゃ青龍に入れてるか分かんない得体のしれない化け物みたいに思ってるヤツは多いはずだぜ」
「……その通りだよ」
「挙句、白銀はお前を気に入ってるしな。恋愛感情かどうかは知らねーけど、好きは好きだろ。で、白銀は白鴉の野郎も大好きだ。アイツ、見た目より素直だよな」
それも、その通りだ。美岳が白銀と仲良くなってくれてよかったとホッとする。
「だから、一悶着起こるぜ」
その安堵を握り潰すように、美岳の厳しい声が忠告する。
「気を付けろよ。今回の麒麟の件もだけど、女は色々面倒だぜ」
──白銀は、今回の戦線に私を参加させないといった。大人しく学校にいろと。なんなら、青龍メンバーの誰かを連れて家に帰るように言った。その配慮は、私が女だからだ。
「……分かってる」
私が、男性に触れられることを怖がっていると、白銀は知らないから。