「あのお祭り馬鹿が本気で襲うわけないからな。そもそも、今年の南西って仲良いんだろ」

「白銀から聞いたのか? そうだよ、俺と(さかえ)が仲良いから、今やってんのはミスコンミスターコン対決だけだ」


 よく分からないが、南西は平和に競い合っているらしい。例年殴り合いしかしていない北東は爪の垢でも煎じて飲んでほしい。が、桐椰先輩も白銀も、玄武の冬樹くんもどう見ても男にしか見えない顔と身体なので、女装し始めても面倒だ。そんなことを考えて一人で現状に満足してしまった。


「なしじゃないけどなぁ、どう考えても麒麟だよな、それ」

「だな。青龍(おれたち)にも襲われてるヤツ結構いるし」

「あ、マジか? 麒麟ってそんな強ぇイメージなかったけどなぁ」


 因みに、美岳はアイスティーとショートケーキときた。女装してるときは食べ物まで可愛いのか。


「基本アイツらって何やってもOBに揉み消してもらってんじゃん。せこいカツアゲくらいしかしてないイメージなんだよな」

「商工生に手出したりな。四神には手出しにくいんだろうな、負けるから」

「それ、そういうとこがせこいんだよな、アイツら」


 犯人はおそらく麒麟で確定、か……。それなら喧嘩になれば負けはしない。麒麟側が加減を知らないとしても、それは遊び相手に相応(ふさわ)しくないというだけだ。青龍が出れば麒麟を叩き潰すことは容易だろう。

 容易である、はず……。それなのに、妙な胸騒ぎがした。何だろう。白銀がいれば負けるはずはない。桐椰先輩だって、引退したとはいえ、四神同士の争いではなくて麒麟が介入した事件となれば手を貸してくれるかもしれない。雪も……。


「珍しい顔してんな、氷の女王」


 どんな顔をしていたのか自覚はないが、少なくとも美岳は難しそうな顔で私を見ていた。


「ま、お前女だもんな。不二みたいに襲われたらシャレになんねーし、今回は裏の裏の裏くらいに控えといたほうがいんじゃねーか?」

「別に、その心配はしてない」

「白鴉がいるからって油断しないほうがいいんじゃねーの? 相手が麒麟だとマジで数多いからな」