「あ、どうも……」


 不二は小さな声で挨拶するに留まり、岩山おばさんは鼻を鳴らした。挨拶のできない子は岩山おばさんが嫌いな若者の筆頭だからだ。


「で、まず何がどうなってんのかってことから説明させてもらう」


 四人がけのゆったりしたソファに三人ずつ青龍と朱雀が座り、羽村が別のテーブル席から椅子を持ってきてお誕生日席についた。因みに美岳を見るのは心臓に悪いのか、その視線は下に落ちている。


「事件があったのは先週、放課後だ。八時前、南公園の公衆便所の隣の草むら」

「ガチじゃねーか」

「あぁ、だからお前に頼んでんだよ」


 美少女の見た目にそぐわず、美岳は頬杖をつきながら舌打ちしてみせた。


「不二と菅原(すがわら)──菅原は今日はいねぇけど──この二人が一緒にいるときにやられてな。暗かったし、不二はこの恰好だったしでカップルに間違えられたってわけだ」

「カップルって思ったからって襲うのか……?」

「まーそこが余計にクソ野郎つーかなんつーか。彼氏の前で彼女襲うのが好きなヤツもいるしなー。たまたま片渕が通りかかったからよかったけどよぉ、じゃなきゃ不二が犯されてたぜ」

「……相手に心当たりはないのか?」

「ねーよ、片渕も暗くて制服は分かんなかったって」


 な、と美岳が促すと、片渕は頷いた。


「何も見えなかったの? 色は無理でも柄とか……」

「いや……南高のじゃなかったことは分かるんですけど……」

「学ランかブレザーかくらいは分かるんじゃないのか? そもそも制服だったのかってのはあるけど」

「あ、それはブレザーでした」


 片渕の代わりに、今度は不二が雪に頷いた。確かに、事件張本人のほうが相手の姿は間近で見ている。それを聞いた雪と白銀は顔を見合わせた。


「制服で襲うか普通……どこのヤツかすぐにバレるじゃねーか」

「だな……となると、何も考えてないか、あるいはバレることに意味があるか、だ」


 バレることに意味がある……特定の高校に罪を擦り付けたいか、自分の高校の力を誇示したいか……。とりあえず、この近辺で南高以外のブレザーとなると特定は容易だ。


「西高か麒麟だけど、やってることからしてどう考えても麒麟なんだよな」


 運ばれてきたコーラーのストローを、白銀の指先がピンと弾いた。雪も頷く。