「探偵ごっこだけなら朱雀でできんだろ? その手のスペシャリストがいるわけでもない俺達に声掛けに来たってことは用心棒でも頼みたいってことか?」
「まぁ、近いっちゃ近いかな」
確かに、朱雀は喧嘩をしても顔面への攻撃を嫌がるくらいには美意識の高い集団だし、強姦を企てるくらい乱暴な相手となれば青龍に応援を頼むのは正当といえば正当だ。結局、喧嘩の実力でいえば青龍と玄武が二大巨塔だし、特に今年は白銀と雪を筆頭に実力派揃いだし。
「用心棒だぁ? 俺達別に男守る趣味ねーんだよなぁ」
ただ、それとこれとは別だ。話にならん、と言わんばかりに羽村は手で追い払う仕草をする。
と、すかさず美岳が前に出た。(美岳曰く)武闘派の青龍の一員として羽村は身構えるが──美岳は細い人差し指で、そっと羽村のシャツの袖を摘まんだ。
「……守ってくれないの?」
青龍屈指の女好きであるはずの羽村がビシィッと硬直した。見ていた私達は「アイツ声まで変えられるのかよ!」と、心の中で激しいツッコミを入れた。ただし一部は羽村と同様に言葉を失っている。
「ね、えーっと、名前なんだっけ?」
「羽村績」
羽村は石像状態だったので、雪が横から(美岳にとっての)助け船を出した。絶対面白がってるだろ、雪。
美岳は羽村篭絡作戦を続行するがごとく、「績くん」と甘い声で名前を呼びながらシャツを引っ張った。眉を八の字にし、困った表情で羽村を覗き込む。
「誰が犯人か分からないと……夜歩くのも怖くて……」
いや女装やめればいいだろ、と思ったけど、何も言わずにおいた。
「績くん、喧嘩強そうだし……守ってくれたら、嬉しいんだけどな……」
そしてダメ押しとばかりに羽村の胸元に触れるか触れないかぎりぎりの距離で手を滑らせ、今度はシャツの裾を掴んだ。
「分かった、任せろ」
「羽村テメェ馬鹿野郎ぉ!」
見事陥落された羽村に白銀が半分素で叫んだ。美岳がにこっと笑えば、白銀の怒鳴り声など届くこともない。呆れた白い目を向けていると、美岳は私に気付き、ニヤッと口角を釣り上げた。