「おい、朱雀が来たぞ!」


 その訪問は、随分と急だった。お陰で白銀も幹部も揃って窓の外を見て、その知らせが本当なのか確認する。


「あー、マジだ、あの制服は南高だな」

「ど真ん中に女いるしな」

「いや男だろ、何言ってんだ」

「マジでいい女だよなぁ、今年の朱雀……去年一瞬やってた朱雀はまだ男感あったってのに……」

「だからすぐ替わったんだろ」

「あ、確かに」

「まさに傾校の美女だな」

「くだらねぇ話してないで降りるぞ」


 まさしくくだらない話ばかりの幹部に呆れ声を投げ、白銀は先陣を切ってアジトを出る。ただ、花岡が「白銀先輩、上着!」と叫ぶ通り、白銀は大事なものを忘れていたので一度戻って来た。間抜けだ。ぷっ、と雪が笑い、白銀が渋い顔で花岡から長ランを受け取り、改めて幹部を引き連れて出ていく。その後を追いかければ、雪が怪訝な顔をした。


「なんで京花も?」

「ちょっと気になることがあって」

「朱雀は乱闘しねーからいいけど。万が一もあるし、ちゃんと後ろ下がってろよ」

「相変わらずラブラブだねぇ、そこ」


 ニマニマした鵜飼先輩の顔が、ニュッと私と雪の間に生えてきた。絶妙に鬱陶しかったので速足の速度を上げると「おい雪斗! 彼女の愛想どうにかしろよ!」と雪への当たりが増していた。でも「あれが時々でれるからいいんですよ」と適当に受け流しているので、さながら雪は暖簾(のれん)。なお例によって白銀は疎外感による大ダメージを受けて、速足のスピードが落ちた。


「ま、冗談はどーでもいんだよ」

「何ですか、本題は」

「いや、その、デマだと思って別に言わなかったんだけど、朱雀の後輩が強姦されそうになったらしいんだわ」

「は?」


 素っ頓狂な声を上げたのは雪ではない、その場にいた幹部全員だ。加えて、驚きよりも怒りの混ざった低い声。白銀の鋭い視線が鵜飼先輩を射抜いたせいか、鵜飼先輩は「あ、でも、男だから強姦とは言わねーのか?」と誤魔化すように情報を加えた。