『痛ッ──』 間違いないのは、叩きつけられた肩の痛みくらいだった。 唇の触れ合う瞬間も、舌を絡め合う感触も、服の中に滑り込む手の温度も、どれもこれも、現実には思えなかった。 『足、開けよ』 それまで感じたことのない恐怖に、耐えられなかった。 だから私は、雪を置いて、逃げ出したのだ。 ひとりだった、雪を置いて。