そんな桐椰先輩と五十六代玄武は、まさしく死ぬほど喧嘩が強かった。その名は崇津市外にも広まるほどで、迷い込んだ不良は悉く返り討ち。なんなら近隣の町まで討伐に向かう始末、崇津市内喧嘩ルールを侵しながらも「相手がビビッて引きこもりになって報復には来ないのでオッケー(桐椰先輩談)」。そう、桐椰先輩と五十六代目は仲が悪いのに、喧嘩するほど仲が良いというか、共同戦線をはれば息はぴったり、裏で“双璧”なんて呼ばれていた。
そんなこんなで、去年までは陥落組の白虎と朱雀、攻落組の玄武と青龍が君臨していた。その四人の支配のもと制圧された四神外の不良は数知れず、その結果、彼らは四神とかけて死神と呼ばれるようになった。因みに、白銀だって制圧された不良の一人だ。半々グレみたいな麒麟は、その死神たちのお陰で二年間、静まった。
その死神のうち二人が卒業し、二人が後輩に席を譲り渡した。それからひと月と経たないうちに、青龍のメンバーが突然襲われる事件が増えた。最初は相手が誰か分からなかったけれど、少なくともやり口が四神ではなかった。そんな中、背後から突然殴られても気絶しなかった青龍メンバーがいたお陰で、相手が判明した──それが麒麟。だから白銀は、ゴールデンウィークに入る前に幹部を通じて青龍内で注意を促した。その甲斐があったから榊一人で済んだのか、なかったから榊が被害を受けたのかは分からない。
少なくとも現段階で言えることは、中央との衝突は避けられないということだけだ。
「雪斗、お前も気を付けろよ」
病院を出た後の分かれ道で、白銀は不自然なくらい真面目な口調になった。
「中央が無差別にやってんのか、相手を選んでんのかは分からない。ただ、選んでるとしたら──俺なら、お前を狙う。お前一人やれば青龍の士気を一番効率よく落とせる」
「それを言うなら哲久もだろ」
でも、雪はいつも通りの飄々とした口ぶりだ。どこか他人事みたいに。
「大体、麒麟の目的が士気を下げることにあるって断定するのも尚早な気はするな。単純に壊滅させるんだったら俺達から狙う必要はないし」
「雪、それはトートロジーでしょ」
白銀は、目的が分からない以上注意しろと言った。そして、単なる壊滅なら狙われる確率は全員等しいとしても、特定の目的下では幹部が狙われる確率が高くなる。総合すれば、結局幹部が一番危険ということだ。
そんなことを、雪が理解できていないはずがない。静かにその顔を見上げた。