「遊佐莉乃ちゃんって一年生の間でも有名なの?」

「あ、はい、そっすね! 多分うちの学年で一番可愛いっすよ!」


 あまり話したことのない花岡くんは少しどもりながら頷いた。その遣り取りを見ていた雪が鼻で笑う。


「京花、目つきが悪い。もっと穏やかな表情になれよ、花岡が怖がってる」

「悪かったね奥二重で」

「えっ、いや俺は別に気にしてないっすよ!」


 花岡は当初から青龍に顔を出していたとはいえ、まだ入学したばかり。探り探り髪を茶色く染めているけれど、まだ中学生のような可愛らしさが顔には残っている。その顔で慌てたように首を横に振るものだから、まるで私がいじめているような図になってしまった。


「余計なこと言わないでよ、雪」

「本当のことだろ」

「それが余計なの」

「でも花岡は元からキョドってたじゃん」

「急に話しかけたせいでしょ、別に私が怖かったわけじゃない」

「そうなの?」

「え、いやえっと、」


 雪が花岡くんに振ったところで、白銀がコホンと大袈裟な咳払いをした。


「とにかく、誰が幹部なのかはしっかりと他のヤツらにも知ってもらうし、幹部らしく振舞ってもらうからそのつもりで」

「らしくって具体的にどうすれば?」

「それはその……」


 羽村が挙手して訊ねれば、白銀の視線は困ったように私を見た。自分で招集しておいて何も考えてないのか、あの男。私だって別に何をどうするのかなんて知らないけれど、と見つめ返していれば、視界の隅で雪が口を開いた。


「基本的には規律とか秩序維持じゃね? 例えば一年の遊佐みたいなヤツのことは積極的に締め出すとか。他にも後輩の面倒も他のヤツより見てやるし、前線に並ぶことにはなるし」

「そうそう、そんな感じ」


 結局雪が代わりに言った形になった。羽村は「えー、莉乃ちゃんに嫌われたらどーすんの?」と嘆くが、西崎は「確かにあの子みたいなのが増えるのは嫌だな」と頷いた。その台詞といい、軽くパーマがかっただけの黒髪といい、その性格は比較的真面目だ。ゆるっとしたこの幹部の中に一人でも西崎のような人がいるのは確かにありがたい。