「京花──」
バフッ、と雪の顔にセーラー服を投げつけた。雪は今日も易々とキャッチしてみせる。セーラー服をずらした雪はズレた伊達眼鏡を外した。
「そう毎回怒らなくてもいいのに」
「怒るに決まってる。……ねぇ雪」
雪は勝手に学習机の椅子を引いて座って、頬杖をつく。その様子は視界の隅に映って、こちらを見ているのが分かる。
「昨日聞けなかったけど、ナンバー2、引き受けたの?」
「あぁ、その話。だって引き受けない理由はないだろ?」
「……そうだね 。白銀のほうがどうかしてる」
雪の片腕に乗っているセーラー服を取り戻した。「ん、」とこちらを見上げた雪と目を合わせてしまう。
眼鏡をかけていない雪は印象が変わる。筆で書いたように綺麗な眉と、マスカラでもつけているかのような長い睫毛と、瞳孔が見えないほど黒い目。昔は子供っぽかった目元は、今は少し冷たくなった。
長い睫毛が上下したかと思えば、真っ黒い目が私を射抜いた。お陰で少し身が竦む。
「……白銀にもちゃんと 言った」
「ふぅん」
「……白鴉を青龍のナンバー2にするのはやめたほうがいいって」
「それで、哲久の返事は?」
「……『別によくね?』って」
「だろうな」
言葉通り、さも当然と言わんばかりの声音だった。私だって白銀の返事は当然だとは思う。白銀が一番仲良しなのも、一番信頼しているのも、白銀の次に一番腕が立つのも雪斗なんだから。
──白鴉。中学生の雪につけられた、烏丸雪斗というその名前にお誂え向きの愛称──ではなくて蔑称。狡猾で容赦のないやり口。そのくせ真正面からやり合っても敵わない。敵を生んで当たり前。白銀と同じで“一人だけど出鱈目に強い”から、崇津四校いずれにも属さずに敵を作り続けた。そして白銀と同じく、青龍に入った。
でも、白銀と違うのは、雪はまだ崇津四校内に敵が多いこと。