「おい、氷洞は来なくていいだろ」
「そーですよ姐さん! 怪我したらどーすんですか!」
「だって代替わりしたばっかりでしょ、朱雀は。偵察偵察」
「……後ろ下がってろよ」
チッと仕方なさそうに白銀は舌打ちした。隣を歩く後輩が「白銀さんマジクール……!」と羨望の眼差しを送る。私は白銀の後頭部を睨みつける。私に舌打ちするとか覚えてろよ、白銀。
校門前にずらりと並ぶのは臙脂のブレザー。不良集団にしては妙に高貴な雰囲気があり、黒の学ラン(裏地は濃紺になっている)に身を包んだこちら側がなぜか「くそっ、南高の制服マジで羨ましい……!」と女子高生のような感想を漏らす。もちろん私は濃紺に赤いスカーフのセーラー服だ。そして白銀は特注の長ラン。そう、長ランだ。いつの時代だよ最早そんなもの漫画でしか見ねぇよみたいな長ランだ。背中には青い龍の刺繍まで施してあっていよいよそれは何なんだって感じだ。
ふ、と南高のリーダーが鼻で笑った。
「出たよ時代錯誤の長ラン。トップが着る伝統だかなんだか知らねーけどダッセェんだよ」
「は、南高にだけは伝統馬鹿にされたくねーな」
それに対して白銀も挑発的に笑みを返す。
「トップが代々女装美人とか、気持ち悪ィにもほどがある」
……伝統と歴史を重んじる崇津市の四つの高校には、それぞれの伝統がある。南高の伝統は、代々トップが女装美人。