高校に入るまで、白銀はかつて銀狼と呼ばれ、酷く荒れていた。青龍・白虎・朱雀・玄武──崇津四校のどれにも所属しない中学生の不良もいないことはない。が、大抵は崇津四校に恐れをなして息を潜めているのが普通だ。せいぜい、崇津四校に隠れてケチなカツアゲでもしてる程度。だから、崇津市内で不良を気取る中学生には三パターン しかない。そのうちの一つが白銀のパターン──“一人だけど出鱈目(でたらめ)に強い”だ。崇津四校に所属するどの不良達とも違い、無秩序に境界線なく暴れていた不良。誰彼構わず喧嘩を売り、恨みを買っていた。さすがに手を出していたのは不良だけだったとはいえ、“崇津四校同士でしか喧嘩はしない”というルールを破り、市外の不良ともやり合う白銀に、各チームは手を焼いていた。そんなことをされると、白銀を狙ってやってきた不良が一般人や崇津四校のメンバーに手を出し、手を出されたとなれば崇津四校に所属する不良もそのルールを破らずにはいられないからだ。その結果、一昨年の冬には崇津四校のトップ──四神が集まって会議を開いた。いっそのこと崇津市にはいられないくらい徹底的に潰してやろう、という意見も出たらしいけど、詳しい経過は知らない。ただ、最終的に桐椰先輩に叩きのめされ、そのまま抱き込まれるように東高に進学し、今に至る。

 当時の白銀は、そのくらい酷かった。手負いの獣なんていえば同情を引けるという意味で聞こえはいいかもしれないが、白銀による喧嘩の余波を受けた側としては堪ったものじゃないだろう。

 そんな、誰も寄せ付けようとしない冷徹な銀狼。それを今、垣間見(かいまみ)た気がした。

 そっと、莉乃ちゃんはソファを離れる。(おび)えたように少しだけ手を震わせて。


「……すみません……、でした……」


 そんな白銀を見たことがないのは、入口に立つ二人も同じ。茫然としていた二人は、莉乃ちゃんがやってくると、通すためにちょっとだけスペースを空ける。

 が、そこで莉乃ちゃんが出ていく前に、ひょいと雪の顔が出てきた。


「うぃっす。やけに静かだな、なんだこれ」


 飄々とした声だったけれど、その目は教室内を見渡した瞬間にスッと冷たくなった。状況は把握したらしい。