ぷぅ、と莉乃ちゃんは頬を膨らませた。くっ、可愛い……! 女の私がそう思うほどだ、当然羽村は「えー、いいんじゃないかなー。なー、哲久」とすっかり使い物にならなくなっている。そして白銀は──。


「駄目だ。本部は幹部以外入るな」


 ──意外にも、ぴしゃりと言い放った。てっきり莉乃ちゃんにメロメロかと思いきや、あまりにも堂々と規則を破るその行動に面食らっていただけらしい。

 そんな風に男子から注意されたことがないのか、莉乃ちゃんはびっくりして白銀を見つめる。ぱちぱちと瞬きする様子は、長い睫毛のせいで対面からでもよく分かった。それでも、白銀の表情はひんやりと冷たい。


「青龍は女子禁止とは言ってないから、溜まり場に出入りすんのは許す。でも青龍に出入りする以上、青龍の規則(ルール)は守ってもらう。守りたくないなら守らなくてもいい、が、その代わり青龍には出入りするな」

「えー、でも……」

「でもじゃない、青龍の規則(ルール)は俺だ。俺に従えないなら青龍には要らない。俺はお前に青龍に入ってくれと頼んだ覚えはないからな」


 淡々と莉乃ちゃんを拒絶する言葉に、しん、と本部内が静まり返る。羽村が「さすがに言い過ぎじゃ……」と小さく呟けば、白銀の鋭い視線が飛んだ。


「お前だって心配してたことだろ。女子だからって俺は特別扱いはしない」

「で……でも、その、氷洞先輩は入ってますよね……?」


 ちらっと莉乃ちゃんの目が私を見た。その目には一瞬嫉妬心か敵愾(てきがい)心のようなものが見えた気がしたけれど、今のところは気のせいだということにしておこう。


「氷洞はれっきとした青龍のメンツだ。情報収集してほしいときは他校に入ってもらうし、この間も雪斗と一緒に玄武の様子を見に行ってもらったばっかりだ。俺達と仲が良いから、なんて理由だけでいるわけじゃない」


 さっきは仲が良いからとか言ってたくせに、都合いいな、白銀。


「でもお前はそうじゃない。ここにいていい理由も、俺がここにいてほしいと思う理由もない。出て行かないなら績が引きずり出す」


 じろりと莉乃ちゃんに向けられるのは、外でも滅多に見ることのない、冷たく怒る目だ。銀髪の隙間から覗くその目は、ヘタレを見せない外でも見たことがなかった。