そのとき、廊下で「だから駄目だって!」「えーいいじゃないですかー」「ダメダメ! 俺達だって中には入らないんだから!」なんて騒ぎ声が聞こえ始める。男子の声二つと女子の声一つ。聞き覚えのない女子の声に私と白銀は眉を顰めるけれど、羽村だけが「あ、莉乃ちゃんじゃん」といち早く反応した。

 そして「こーんにーちはー」と明るい声と共に入口扉が開く。主要メンツ以外は踏み込むのも躊躇する本部にスキップでもしそうな様子で入ってきたのは、小動物系女子。ゆるふわミディアムの茶色い髪はつやつや。肌も真っ白できめ細かい。手足もすらりと細く、でも細すぎることはなく、膝上のスカートは魅惑的。


「白銀先輩ですよね?」


 そして早速、白銀の座るソファの近くまでやってくる。さっき話してた遊佐莉乃ちゃんだろう。嬉しそうに笑う口元に(のぞ)いた歯はピシーッと綺麗に整っていた。


「え、あ、あぁ……」

「おい入るなって……」

「私、白銀先輩に憧れて東高にしたんですー!」


 そして忠実に規則を守って本部に踏み込もうとしない二人は莉乃ちゃんを止められない。だが何も知らない莉乃ちゃんは強い、「えーっ近くで見たら本当カッコイー!」などときゃぴきゃぴ騒ぎながら、あろうことか白銀の真横に座った。白銀はギョッとしたように気持ち反対側に寄る。


「え、と、君……、遊佐莉乃ちゃん?」

「えーなんで知ってるんですかー?」


 疑問形になってるけれど、声は知られていて当たり前とでも言いたげに喜んでいる。白銀は若干狼狽(うろた)えているし、羽村は莉乃ちゃんを見ただけでデレデレ嬉しそうだし、二人が莉乃ちゃんを注意する気配はない。でもこれでは白銀のメンツが立たないというものだ。


「ちょっと羽村、溜まり場でよく面倒見てるんでしょ? 責任持って摘み出したら?」

「えー、摘み出すとかそんな可哀想じゃん。別によくね?」


 女子禁止かどうかをわざわざ確かめに来たさっきのお前はどこへ行った。


「規則は規則でしょうが。ちゃんと守ってるヤツがそこにいるのに、一年女子が堂々と入ってくるのはだらしがないんじゃない」

「そうかぁ?」

「えー、入っちゃ駄目なんですか?」