「女子が入ってどーすんだって話なんだよなぁ」

「でも彼方先輩はわざわざ解禁したんだろ?」

「それは彼方先輩にくっついてくる女がいたからだろ? で、彼方先輩は結構溜まり場によくいたから女子が溜まり場にいてさ、潤ってていいって言う先輩と、どーせ彼方先輩目当てだから意味ないってぼやいてる先輩がいた」


 その状況は私も見ていたので知っている。いつでも女の子を連れていた桐椰先輩は、同時に二人以上の女の子と付き合うことだけは決してしなかったのに、彼女が日めくりカレンダー並みにコロコロ変わっていた。びっくりするくらいモテるのにびっくりするくらいすぐにフラれる。私達の学年には桐椰先輩に憧れて入学した女子も多いというのに、知れば知るほど残念な人だ。


「それで憎まれないんだから彼方先輩すげーよなー」

「まーな。でもほら、そういうこと」


 羽村が感心し、白銀が同意したところで、桐椰先輩の人徳に話が逸れてしまうかと懸念したけれど、珍しく白銀が冷静に話を進めた。


「普通女が入ってきたらそうなるじゃん? 特にTKT並みに可愛い女子なら取り合いにもなるし、誰かの彼女に収まれば後味も悪いし。かといって女子がいるからいい、みたいなのないし」


 百害あって一利なし、というのは言い過ぎかもしれないけど、要はそういうことだろう。


「でも氷洞いるじゃん」

「氷洞は紅茶いれてくれるじゃん」


 お前にとっての私の存在価値紅茶かよ。紅茶の味も分からないくせに。


「多分莉乃ちゃんも紅茶くらいいれられるぜ?」

「確かにTKTの子が紅茶淹れてくれるってのはいいよな……」


 さりげなく私の顔面偏差値と新入りの想定顔面偏差値を比較するな。殺すぞ白銀。


「でもなー。氷洞は他校に乗り込む度胸もあるし……つか俺と仲良いからな」

「リーダーと仲が良いとかいう私情挟みまくりの理由でいいわけ?」

「氷洞落ち着け、いま大事なのはそこじゃない」


 羽村の前で本性を出せない白銀は穏やかにツッコミを入れる。そうだな、“俺と仲良い”は渾身(こんしん)の見栄──じゃなかった、勇気を振り絞った発言だもんな。