「嫉妬もするだろ、氷洞が幼馴染だろうがなんだろうが雪斗は俺の相棒だぞ!」

「しねーよ嫉妬とか! お前心狭いな!」


 はー、まったくややこしい話し方しやがって、と朱雀は足を投げ出した。俺は何もややこしい話し方なんてしてないぞ。多分。


「つか玄武は明らかに女慣れしてねーつーか多分目を合わせて微笑んでおはようを言えば落ちるタイプの男だが」

「どういうタイプの男だよそれ」

「氷の女王──つか本名なんだっけ、ヒョードー? ぶっちゃけお前はヒョードー好きになんねーの?」

「……あの氷洞を……好きに……?」


 朱雀は「まぁまぁ照れ隠しすんなよー俺とお前の仲だろ?」なんて言いながら俺の肩をばしばし叩き促すが、俺の認識が正しければ俺とお前の仲、別に良くないぞ。俺お前の家族構成と趣味と恋愛対象くらいしか知らないぞ。いやでも家族構成と趣味まで知ってるって結構仲が良いのか……?

「いや……正直、氷洞を好きになってもあの冷たい目で蔑まれる未来しか浮かばなくて悲しくなるっていうか……」

「お前本当に男か? 好きな女とそんな妄想しかできないのかよ」


 だって氷洞、俺に冷たい目で蔑む以外のこと、したことないもん。


「あー、でも、氷洞の淹れてくれる紅茶は美味しいなぁ」


 あとは、毎日放課後で紅茶を出してくれることくらいか。……くらいって言っちゃいけないな、あのツンドラの氷洞がそれだけは何も言わずに、寧ろやって当然みたいな顔してやってくれるんだ。これは感謝しなければ。

 うんうん、と頷いていると、朱雀は「へーえ、意外と家庭的なんだな」なんて飛躍した評価をする。


「ま、氷の女王なんて呼ばれるヤツの淹れる紅茶が美味いってのはギャップ萌えかもな。コーヒーじゃなくて紅茶ってのがオシャレだし」

「そういえばコーヒーはないな……確か彼方先輩──百代目はコーヒー派だった気もするのに……」

「白鴉が紅茶派だったりしてなー」


 はっはっは、と朱雀は満面の笑みを浮かべて笑ってみせる。冗談だぜー、なんて聞こえてきそうな口ぶりだ、が。


「……そういえば雪斗、たまに紅茶リクエストしてるな……」

「……白鴉がたまたま紅茶に詳しい可能性もなきにしもあらずだが、氷洞が白鴉の好みに合わせて紅茶を淹れてる可能性もなきにしもあらずだな」

「……氷洞も雪斗には訊くのに俺にはリクエスト訊かないな」

「……お前はオレンジペコはオレンジ味だとでも思ってそうなくらい紅茶分からない顔してるのにな」

「オレンジ味じゃないのか!?」


 オレンジペコって名前の紅茶なのに、と愕然として朱雀を見つめ返すと、その目は益々憐れそうに変わった。


「……なぁ白銀」


 そして、ぽん、と俺の肩を叩きながら、朱雀はスッとスマホを取り出す。


「お前の女子力、少し鍛えてやるよ……それで頑張って白鴉を見返してやれ……な?」


 青龍百一代目、白銀哲久。本日、朱雀七十二代目の美岳澪平とLIMEを交換しました。