呆れた声に憤慨した、が。正面に仁王立ちして見下ろすその中性的な──というより、下手したら雪斗以上に綺麗な顔……。

 ……まさか。


「お前朱雀か!?」

「そーだよ。漸く気づいたか」


 いやいやいやいや! そんな俺が鈍いみたいな反応するなよ! そんなクソ短い茶色い頭見せられてあのお嬢様系ふわふわ美女と一致するわけねーだろ! 顔だって原型留めてなかったぞ! 道端ですれ違ったら絶対ナンパされるレベルの美女だったじゃねーか! 化粧ってすげーな!

「お前……男だったんだな……」

「なんだよその反応。美岳(みたけ)澪平(りょうへい)、性別男、恋愛対象女、趣味女装のれっきとした男だ」


 れっきとした、とは……。美岳は「あー、俺もなんか飲みたい。今日ちょっとさみーのによくコーラなんか飲んでんな」とベンチの隣の自販機で缶コーヒーを買う。


「つか、女装は趣味なんだな、朱雀だからとかじゃなくて」

「俺、上に三人姉いてさぁ」


 ほらどけよ、なんて手で示され、仕方なくベンチの端に寄る。朱雀──美岳は股を開いて隣に座った。こうしてると男だなコイツ。


「でもって父親単身赴任だし? 俺の顔綺麗だし、姉どもの服もあるしで母親が女の服着せたがってさ。ま、しょーじき、美人な母親に一番似てるの俺だし、あのババア共より綺麗ともなれば嬉しいよな!」


 誇らしげに美岳は親指を立てて見せる。嬉しいのか? 俺にはよく分からんぞ。


「あ、久しぶりに帰って来た父さんは『息子がいたはずなのに……』って膝から崩れ落ちたぜ! 狙って女装した甲斐があったぜ!」

「お前……なんか、体はってギャグやってるって感じだな……」

「ギャグじゃねぇよ、趣味なんだから」

「あ、そう……」


 よく分かんねぇな、コイツ。白い目で見ていると、美岳は「お前なぁ」と呆れた声をあげた。


「生まれ持った性別だけじゃ恋愛対象までは分からないなんて、小学生でも知ってるこのご時世だぞ? 男装してたり女装してたりってだけで色眼鏡で見るのはよくねーぜ」

「お、おう……お前意外とまともなんだな……」

「まともとかまともじゃないとかいえば、玄武の野郎がお前のとこの氷の女王に告ったらしいな!」