いやもっと断り方ってあるじゃん? 普通に好きじゃないですの一言でいいじゃん? そりゃそういう断り方はされたくないよ? でも青龍にいないならありって思わせるのは駄目じゃん? ていか、それってもしかして氷洞的にもなしじゃないってことなんじゃないの?

 そんな俺の激しい苦悩が口に出るわけがない。だってそんなことを言えば氷洞は間違いなく絶対零度の視線を向ける。雪斗は「璟華はツンデレだよ」なんて言ってるけど、どこにデレあんの? ツンツンしすぎてツンドラかよってレベルなんですけど? 氷洞の心は永久凍土なの? つか仮にデレてるとしても、デレてる相手、雪斗だけじゃね?

「まーでも、璟華に一目惚れしたとか、今年の玄武は変わってるな」

「ちょっとそれどういう意味」

「だって璟華に一目惚れって……しないし。体目当てって感じじゃないしなぁ」

「それセクハラ」

「俺と璟華の仲にセクハラはないだろ」

「あるから。ていうか、上衣のままそういう座り方するのやめたら? 皺になるから」


 あと、そういう夫婦みたいな遣り取り、やめてくんない?

 氷洞と雪斗が幼馴染で仲が良いっていうのは東高の連中はみんな知ってる。時々、俺と氷洞が一緒に歩いているのを見て「氷洞さんって白銀くんと付き合ってるんだっけ?」なんて言うヤツがいるけれど、大体必ず「いや、それはないでしょ、だって氷洞さんって烏丸くんと付き合ってるじゃん」と訂正するヤツがいるレベルだ。

 青龍のメンツじゃなくてもそうなんだから、青龍のメンツなんて言わずもがなだ。

 一年の四月、青龍の本部に来たのは最初は雪斗だけだったけど、その日のうちに氷洞がやって来た。しかも「雪、お弁当忘れた」なんて台詞と一緒にだ。

 え、なんなの、そこ付き合ってんの? 一年の四月だぞ? 幼馴染だとしても思春期のせいで名前呼ばれるのって抵抗ない? しかも“雪斗”じゃなくて“雪”だぞ? 名前呼びの次段階じゃんそれ? それを人前で恥じらいもなく呼べるの?

 それは絶対、俺以外全員思ったはずだ。つか彼方先輩が「え、なに、お前もう彼女いんの?」と当然に雪斗に話を振って、雪斗は「いや、幼馴染っす」なんてさも当然のように否定。氷洞はその時からツンドラなので無表情で無視。二人の余裕っぷりに寧ろ怪しさは増した。