「はーあー……」


 深い溜息を吐くと、氷洞の視線が一瞬だけ俺を見た。が、それ以上はない。無言で今日の紅茶を淹れている。


「……なぁ氷洞」

「なに」

「……えーっと」

「喋ることが決まってから喋って」

「氷洞! いい加減言わせてもらうけどお前俺に冷たいぞ!」

「いい加減じゃないでしょ、いつも言ってるんだから」


 が、氷洞はいつもの通りしかめっ面で不愛想に返事をするだけだ。膨れっ面のままで頬杖をついていると、廊下を歩く雪斗の足音がした。視線を向けていると、雪斗が「あ、璟華、これ貰ったからあげる」とクッキーの入った袋を振りながら入って来た。そのままぽんっと放り投げてソファに乗せる。


「ちょっと、クッキーなんだから投げないでよ」

「元から形不格好だった。手作りだって」

「なんで雪宛の、しかも手作りのクッキーを私が」

「さっき一口食べたらおいしくなかった」

「だったらなんで私に」

「璟華ってちょっと味オンチじゃん」

「馬鹿にしてるでしょ……」

「どうした哲久(てつき)、欲しいならやるぞ」


 じろじろと二人の遣り取りを見ていると、雪斗からは的外れなことを言われた。ちっげーよ、誰もお前に宛てられた手作りクッキーなんて興味ねーよ!

「……あのさぁ、雪斗」

「何?」

「……お前はどう思う」

「だから何を?」

「何をって……」


 ちらっと氷洞に視線を向けても氷洞は無視。ほらこれで満足だろと言わんばかりに俺にマグカップを差し出す。違うんだよだから!

「氷洞が! 玄武に告白されたことだよ!!」


 そう。氷洞は先週、玄武に公開告白された。


「でも断ったじゃん、璟華」


 そう。そして氷洞はその場で断った。


「でも理由がさぁ! 『青龍に所属してるのに玄武のトップと付き合うべきではないので』とかいう尤もらしいヤツでさぁ! じゃあなに、青龍にいないならありなの!?」

「白銀うるさい」

「ひょおどおおお」


 そう。そして氷洞が断った理由はそれだけだった。