「あーのーさー、ひょおどお」
「何」
「……俺と雪斗の扱いが違いすぎると思うんだよねぇ」
教科書から顔を上げると、向かいに座る白銀はクッキーを咥えたまま不満げにこちらを見ていた。隣の雪は無視して漫画を読んでいる。
「どこらへんが」
「もう向ける顔から違うもん」
「嫉妬する男はモテないぞ、哲生。嫉妬はここぞというときにちょっと出すくらいがいいんだって」
「先輩……」
「ま、両想い前提だけどな」
「ひっどいですよ彼方先輩まで! 何ですか俺のこと嫌いなんですか!?」
そして白銀の隣で漫画を読む桐椰先輩。そんなことより、私は受験勉強を理由に引退した桐椰先輩がここで漫画を読んでることのほうが気になるんだけどな。
桐椰先輩は漫画を読む手を止めないで「えー、好きだって言ってるだろ、可愛い後輩は好きだってー」なんて軽い調子で答え、白銀が抗議しようとしたとき、ダダダダッと廊下を走る音が響く。白銀はキチッと姿勢を横柄にした。
「リーダー! 玄武来たぜ!」
「玄武?」
が、飛び込んできた二年──羽村とともにやって来たその報告を聞いてきょとんとする。私達もきょとんとした。玄武が新学期で忙しいことを理由に何もしないでいるというのは、この間北高に行ったときに雪が他の生徒から聞いたことだし、何より玄武自身もそう口にしていたことだ。因みに雪によれば「毎年真面目だけど、今年は真面目すぎ」「あれじゃ楽しくない」「忙しいって言ってるけど本当は怖いんじゃね」なんて半ば陰口も叩かれているようだ。
「代替わりの挨拶か?」
「来るとしたらそれしかないよなぁ。あのチビもやっとその気になったのか」
雪は漫画を置き、白銀は立ち上がる。桐椰先輩に手を振られて、報告に来た羽村と私達三人とで校門に向かう。