白銀、普段は嫌味と皮肉を言われる側なのに、新米くんに対しては妙に偉そうだ。玄武の頬はひくひくと引きつる。


「勝手に侵入しといてそれはないだろ? ちょっとくらい付き合えよ」

「何に付き合うんだよ。挨拶もなしにトップ同士がタイマン張るなんてよくねーだろ」


 ただでさえ仲悪いのにね、と小さく付け加えると白銀が私の腕を小突いた。白銀のくせに生意気だ。

 が、予想外に玄武が飛び上がるほど驚いた。


「おい青龍!!」

「あ? なんだよ」

「お前っ……女子を小突くとか……!」

「いや小突くだろ」


 白銀と同じく私も心でツッコミを入れた。が、玄武はわなわなと震え、おそろしいものでも見るような目で白銀を見ている。

 ……もしかして、男子校にいる玄武は、私達が想像する以上に、女子に慣れていないのだろうか。


「げ──」

「京花」


 それを口にしようとしたとき、少し離れたところからの雪の声に遮られた。視線を向けるときにはもう近くまで来ていて、すぐに私達の隣に並ぶ。なぜか雪は髪をくしゃっと崩して眼鏡をかけて、普段の雪に戻っていた。

 背の高い雪を見た玄武が少し顔を強張らせる。


「もう帰ろうと思ったんだけど、なんで哲生までいんの?」

「お前らが返事寄こさねーから見に来たんだよ」

「LIME通知切ってんだよ、許せ。で、これ誰?」

「五十七代目! 玄武!」


 玄武の声は苛立っていた。白銀が来てからずっとこの調子だ。雪は「へーぇお前が」と頷く。


「勉強計画に優しい優等生玄武くん」

「馬鹿にしてんだろ!!」

「俺が言ってるんじゃないぞ? 後輩含め、そう揶揄されるのはマズいんじゃないかねぇ、俺の知ったことじゃないけど」


 含み笑いを向けられた玄武は、今度は怒ることもなくぐっと押し黙る。


「哲生が用事ないなら帰ろうぜ」

「あぁ帰る。氷洞も用事ないだろ」

「うん」


 その様子に雪と白銀が構う様子はなく、二人は裏門を開けて出ていく。「京花」と雪に促されて私もその後に続く。二人が振り返る様子はないけれど、私がじっと見ている先の玄武は、雪の指摘以来、悔しそうに唇を噛んだままだ。


「……じゃあ冬樹くん、また」


 雪の言葉はいつも鋭いから、さすがに可哀想かな。そんな気持ちで一言付け加えると、玄武ははっと顔を上げた。でも他にかける声はなかったから、それ以上は何も言わずにおいた。