冬樹(ふゆき)航沃(こうよう)といいます。今年の四月から玄武の五十七代目を務めてます」


 よろしく、と彼は──玄武は、目だけでじろじろと観察するまでもなく、端的に答えをくれた。


「……玄武」

「そう。知ってますよね、東高なら」

「……五十七代目」

「あぁ、僕達の代替わりは規則的なので。東高とは数がずれているかもしれません」

「……挨拶に来ない五十七代目」

「……なんで知ってるんですか」


 ぽろっと口にすると、玄武は敬語こそ崩さないものの、胡乱な眼差しを向ける。それもそうだ、そんなことを知ってるのは青龍の一員か少なくとも関係者には違いない。でも例年の玄武を見る限り、女子一人だから人質にされるなんてこともなさそうだし、自分が口を滑らせたことはあまり気にしないでおいた。寧ろこの様子ならこれは好機だ。


「どうも。青龍のメンバーです」

「は! どうりで澄ましてると思ったら……偵察ですか?」

「……まぁそんなとこなんですが」


 体がむずむずした。朱雀がそうだったように、大体東西南北どこの高校の不良も初対面の相手に敬語なんて遣わない。不慣れな話し方には違和感がある。


「で、僕が東高に行かない理由を探りに来たと」

「まぁ……。……あの、敬語やめてもらっていいですか。どうせ同じ二年なんで」

「ん? あぁ……」


 居心地の悪さは玄武も同じなのか、その返事は曖昧だった。腕を組んで視線もそらし、そわそわしている。


「……それで、なぜ玄武は挨拶にも来ず」

「あー、それはで──それはな……」


 丁寧語で喋ろうとして直した。


「新学期一週目は課題テストがあったからな。例年は初日なんだが、今年はなぜか勉強時間といって数日空いて。課題テストがあるのに招集をかけるのも悪いと思ったから今週にしようと思ってんだ。でもよく考えたら新学期なんて忙しいのに他校の挨拶までさせるのはどうかと……」


 …………。噂に違わぬ、生真面目な性格。玄武は毎年、メンバーで一番成績のいい人がトップを務めるというのは本当なのかもしれない。


「なるほど……?」

「まぁでも、さすがに二週間になるからな。そろそろ伺おうとは思ってる」


 “伺う”は、“お礼参り”のようにある種皮肉じみた用いられ方をされたのか、ただ単に敬語なのか。十中八九後者だ。