じろじろと見つめるけれど、雪は知らんぷりで足を進める。校門を通ってすぐにあるグラウンドの脇を歩いていると、流石に陸上部やサッカー部の視界には入ってしまって「女子だ!」「東高だよな?」とやや喜ぶことから始まり「彼女持ち死ねよ」「つかイケメンも死ね」「所詮顔」「北高ブランドとか何もねぇ」とすぐに悪態と自虐に変わった。雪は苦々し気な北高生の表情に満足そうだ。ドS。
クラストは、雪が迷わず足を進める敷地内の片隅にあった。話に聞いた通り、木造の蔵と見紛うようなこじんまりとした剣道場だ。剣道場は別にあるから、別に玄武が剣道場を占拠しているわけではない。
問題は、その古い剣道場の入り口が正面一か所しかないことだ。
「……京花、暫く裏門前で待っててくれる?」
「いいけど、なんで?」
「適当なの捕まえて話聞いてみるから」
京花がいると京花の話になっちゃうだろ、なんて言われてしまえば仕方がない。こうなると、どうしてわざわざ私を連れてきたのかな、なんて首を捻ってしまうけれど──なんとなく、察し はつく。
「じゃ、そういうことで」
「え、待ってよ、せめて裏門まで……」
送って、と続けようとしたのに、雪は「大丈夫、北高はヤバいヤツいないから」なんて肩を竦めて行ってしまった。こういうときは白銀のほうが鬱陶しいくらい面倒を見てくれる。鬱陶しいけれど。
「……意外と話しかけられはしないけどさ」
裏門に行く道のりには部活をしてる北高生がいるので、「東高?」「なんでこんなとこにいんだ?」「誰か話しかけて来いよ……」「無理女子話せねぇ」なんて会話は聞こえてくるけれど、直接話しかけられはしない。