「氷洞だけだよ! 俺の顔を褒めてくれないの!」

「うわーリーダーの顔イケメーン、もう眩しくて見てられない」

「……もうやだ」


 くるんと白銀はやはりクッションにくるまった。

 ──それが、廊下の足音を聞いた瞬間にバッと跳ね起きる。


「ッリーダー!」

「うるせぇよ」


 バンッと扉が開いたときにはもう仮面を被り終えた後だ。息を切らしてやってきた手下に見せるのは、悠々とソファに座り偉そうなほどの態度で足を組むリーダーの姿。その貫禄に感動するように後輩は震え、同時に私に気が付く。


「あ、氷洞さんもいらっしゃったんですね! お疲れ様です!」

「うん」

「で、なんだ?」

「あ、それが西高の奴等が襲撃に来て……! 俺達で出てるんですけど、アイツら銀狼を出せって……!」


 白銀の通り名は、銀狼。一体誰が名付けたんだろう、通称にするにはちょっと恥ずかしくて将来絶対に黒歴史になるヤツなのに。以前そうコメントしたら白銀は拗ねてしまったので今ではもう言わないけれど、どうやらこの仲間達はその呼び方をいたく気に入っているらしい。というわけで、銀狼は気怠げな溜め息をついて立ち上がる。


「分かった、すぐに行く」

「リーダー……!」

「先に行ってろ。氷洞、俺の上着寄越せ」

「うん」

「ありがとうございます!」


 彼はバッと頭を下げるとすぐさまいなくなった。きっと現場に戻るのだろう。言われた通りに白銀の上着を手に取り、対面に座っている白銀の前に立つ。


「で?」

「……えっ」

「〝俺の上着寄越せ〟。偉くなったもんだね、白銀?」

「あっ、いや、すみません、上着取ってくださってありがとうございます氷洞さん……」

「よろしい」


 サッと頭を下げて私の手から上着を受け取る白銀。それを羽織り、白銀は重い溜め息を吐く。こんな姿を人前で見せることはない。みんなが好きなのはクールで強い銀狼だから。


「あー……こんなことしてる場合じゃないのになー……本当はJUMP買って帰りたいのになー」

「早く行って私が帰れない」

「はいはい」


 扉を開け、白銀は仕方なさそうにふっと笑う。


「いましばらくお待ちください、お姫様」