大真面目にそんな提案をするものだから雪は吹き出した。代わりに私が答えれば、その目が「なんだよお前ら阿吽(あうん)の呼吸かよ!」とでも言いたげに私と雪を見る。


「じゃ、そういうことだから。俺達で行ってくる」

「おい俺は納得してない」

「ちゃんと報告はするから」

「当たり前だろ」


 ムッと眉間に皺を寄せたままの白銀。私が雪を促せば、雪は頷いて「じゃーな、哲生。また明日」と歩き出す。生徒達が雑多に入り混じる廊下に取り残された白銀は、きっとあと数分後には本部のソファで不貞寝(ふてね)を決め込むに違いない。


「本当、哲生は京花のことになるとこれなんだから」

「別に、私のことになるとじゃないでしょ。雪が私と出かけるのが気に食わないんだよ、白銀は」

「京花が、だと思うけどな」


 ふん、と楽し気な締めくくり方に、そっと雪の表情を盗み見る。残念ながら、最も雄弁に心を語るはずの瞳は、光を反射した眼鏡のせいで見えなかった。