「おう雪斗、お前も今から本部?」
「いや、今日は帰る」
「そうか。つか、今朝お前頬赤くなかった? どうした、誰かにやられたか」
「あぁ、まぁ。うちのヤツにやられた」
放課後、雪のクラスまで迎えにいくと、丁度廊下で出くわしたらしい白銀とそんな会話をしていた。まるでナンバー2の雪に歯向かった下っ端がいるとでもいうようなその言いぶりに「何? 誰だよ、新入生か?」なんて白銀は神妙そうに眉を顰める。だから雪が口を開いた瞬間、その肩を掴んで止めた。白銀の顔はそのまま私に向く。
「氷洞?」
「雪、お待たせ。行くよ」
「あぁ。んじゃ哲生、また明日」
「おいちょっと待て」
そしてまるっきり存在を無視された白銀は素早く私達を見比べる。それでも流石狼の皮被りというべきか、その声のトーンと表情は余所行きだ。お陰で廊下にいる生徒達は“青龍のナンバーワンとナンバーツーが深刻な話し合いをしているの図”と認識して遠巻きに見つめるか、そさくさと帰宅を決め込むかのどちらかだ。
「どういうことか説明しろ、雪斗」
「どういうことも何も。今朝俺の顔を引っ叩いた犯人は京花で」
「ちょっと雪」
「なんで雪斗を叩いた、氷洞」
「着替え見てただけなのにな、心狭いよな」
「言わないでほしいから止めたのに!」
飄々と言ってのけた雪に叫んだのは私だけで、白銀は無言だった。口を閉じてじっと黙り、ややあってもう一度開く。
「で、これから何の用だ」
「玄武の様子を見に北高に。ほら、アイツらまだ挨拶に来てないだろ?」
「なんで俺に黙って行く」
台詞こそこれだが、普段の白銀を知っていると「なんで俺だけ仲間外れなの」に聞こえてしまう。思わず鼻で笑いたくなるのを堪えた。雪も同じように聞こえてるんだろう、その口の端は僅かに吊り上がる。
「良くも悪くも、お前は目立つから。青龍がわざわざ来てるなんて殴り込みと勘違いされる」
「俺だってフードくらい被れる」
「いやそういう問題じゃないでしょ。何言ってんの」