崇津市の四つの不良校では、不良の存在が黙認されている。理由は簡単だ、そのほうが反って秩序が保たれるから。

 代々受け継がれる伝統のもと存在する青龍、朱雀、玄武、白虎はお互いに争いはすれど、普通の生徒に手を出すことはない。

 こんな例えをしていいのかは分からないけれど、これは部活みたいなものだ。剣道部員が他校の剣道部と試合をするように、空手部員が空手をするのは空手部員とであって柔道部員とではないように、不良(わたしたち)が手を出すのは同じ不良だけだ。

 その決まりを守れないメンバーはトップから容赦ない制裁を受ける。そんな奇妙な秩序社会が私達の中で出来上がっていて、それは実は教師達にとって都合が良い。そうしておけば校内で徒に喧嘩が生じることはなく、校内の不良が他の生徒に手を出すことはなく、他校と喧嘩で揉めることもない。もし私達の数が少なければ教師陣も完全撲滅に乗り出すのかもしれないけれど、代々受け継がれた伝統のもとのさばる私達を潰すのは骨だし、中途半端に潰してしまうと校内の秩序が乱れてしまう……。


 入学時、桐椰先輩がそう説明してくれた。なんなら俺は超優等生だし、俺を見習ってくれるといいとまで教師には言われたよ、なんて悪戯っぽい笑みを浮かべながら。

 桐椰先輩は学校の成績は上の上程度だけれど、模試でいつも学年一位を掻っ攫う、なんというか、要領の良い人だ。見た目がいかにもな優等生というわけではないけれど、いかにもな不良でもない。愛想は良いし、教師相手には敬語も遣うし、その教師が頭を抱えるほどの問題は起こさない。

 それどころか、自称でさえ進学校を名乗ることのできない平々凡々よりやや下の東高の期待の星だ。多分教師にとっては、一番で入った生徒(そう、桐椰先輩は新入生代表挨拶もしている)が偶々ちょっと変わってて、偶々百代目になる青龍になりたがってしまった、まぁ期待の星を手に入れたからそのくらいは仕方ない、といったところだろう。