桐椰先輩に言われるまでもなくそれは分かっているらしく、白銀は此処にいるにしては珍しく神妙な面持ちで頷いた。


「分かってますよ。外患なんかより内憂のほうがよっぽど怖い」

「その意気だ」


 お前に任せて良かった、そう言いたげに桐椰先輩は頷いた。


「そういえば桐椰先輩って弟いませんでした? 東高入らないんです?」

「あー、今年受験だけど多分入らない。俺も百代目なんて面白そうなことなかったらわざわざこんなとこまで来なかったし」

「物好きですよね、本当」


 そもそも百代目って数字だけは記念になるけど、記念にしてどうするんだという話ではある。わざわざ地元から離れてこんなところに来る桐椰先輩の気はしれないが、まぁ先輩の奇妙な変人ぶりは見慣れているので今更疑問を抱くこともない。


「ところで話は戻るんだけど、京花ちゃんって雪斗と付き合ってんの?」

「さぁどうでしょう」

「え! ちょっと待て氷洞、それ初耳なんだけど!?」

「初耳も何もいま私は付き合ってるなんて一言も言ってない」

「じゃあ付き合ってるのかどうなのか教えろよ!」

「知ってどうすんの」

「……いや、ほら、その……気を利かせて出ていくとか……しないけど」

「しないんだろ」

「でもほら……その、なんというか……そう、仲間外れ感! 仲間外れ感があるから教えろよ!」

「疎外感って単語が出て来なかったの? ボキャ貧にもほどがある」

「ひょおどおおぉぉぉ」


 桐椰先輩といい白銀といい、代々の青龍のトップは何かしら一癖ある人間だ。しかも桐椰先輩は優しいあまり女の子に頭が上がらず、白銀が(ヘタレっぷりは隠しているとはいえ)私に自由に発言を許すせいで女に頭が上がらないとまで言われてしまって……。ふぅ、とソファの背に凭れて溜息を吐いた。丁度その時に鳴ったスマホには、雪からの「午後から行く。入学式あるし」というメッセージが届いていた。