バンバンバン、と白銀はソファを叩いて見せる。やはりその寛ぎようは先輩の前でする態度ではない。そして私の尻に敷かれている点については反論も否定もしなくていいのか。


「特に玄武(げんぶ)! ただでさえ北東は仲悪いのに先輩が女タラシなせいでもっと仲悪くなりましたよ! 二年連続で玄武のトップの彼女とったりするから!」

「とってないよ。向こうが勝手に告白してきただけだから」

(たぶら)かしてるじゃないですか!」

「でも玄武の彼女なんだろって言ってちゃんとふったのに」

「先輩には漸く彼女ができたモテない男の気持ちが分からないんすね!」

「白銀は分かるんだね」

「ふ、残念だったな氷洞。俺は彼女できたことないから彼女ができたモテない男の気持ちは分からない」

「…………」

「……氷洞酷い」

「お前が勝手に墓穴掘ったんだろ」


 因みに玄武の属する北高は男子校で、我ら崇津市立東西南北高等学校の中で一番偏差値も高い。だから受験勉強に集中するために代々トップを務めるのは二年生で、ついでに年功序列性なので代替わりは毎年四月。秩序ある高校だ。不良高だけど。そして男子校なので彼女のいないメンバーが多く、可愛い彼女がいるヤツは目の敵にされる。つい一週間前まで青龍のトップを務めていた桐椰先輩は常に女の子からモテていたので、それはもう玄武の妬み(そね)みはすごかった。お陰で今も青龍は玄武から私怨を向けられている。


「まぁでも俺のせいじゃないし?」

「いやだから先輩のせいだって言ってんじゃないですか! 話聞いてなかったんですか!」

「ま、取り敢えず玄武は毎年石橋叩いて渡るタイプだから。代替わりして暫く、落ち着くまでは襲撃にも来ないって。来るとしたらお祭大好きの白虎(びゃっこ)だけど、そんなことより何より、ちゃんと青龍の中をまとめとけよ」


 本日、四月七日。午後からは入学式があり、新入生が入って来る。既に何人かの新入生はフライングして青龍にいるとはいえ、正式に後輩が出来るのは今日の午後からだ。今の青龍のチームは殆どが二年生で三年生も何人かいる。桐椰先輩は一年生のときから青龍のトップを務めたわけだから、後輩が先輩より上の立場にいること自体は珍しくない。問題は、白銀が先輩も含めて青龍をまとめることができるか、だ。