「よっ! 元気にやってるか百一代目!」
「彼方先輩!」
白銀がご主人様を見つけた犬のように、弾けるように立ち上がる。やってきたのは三年生の桐椰先輩だ。快活な笑顔の似合うイケメンで、明るい茶色の髪は柴犬みたいにふわふわ、高身長で筋肉質、ついでに成績は実質学年トップ。色々とスペックの揃ったイケメンだ。
「受験勉強するから引退するって言ったのに、どーしたんですか?」
そして、青龍の記念すべき百代目を務めていた。因みに東高に進学したのは上手くやれば記念すべき百代目になれると風の噂で聞いたかららしい。そして桐椰先輩の入学当時の青龍が九十九代目だったらしく、誰かに先を越される前にと一年生にして百代目の座を勝ち取った。因みに白銀が百一代目になったのは「受験勉強始めます」という宣言と譲位によるもので、白銀が桐椰先輩に勝ったわけではない。
「えー、その受験勉強飽きたから後輩の様子見に来た」
「引退してまだ一週間経ちませんけど」
「京花ちゃん、今日も毒舌絶好調だねー」
ははは、と笑いながら桐椰先輩は戸棚から自分のマグカップまで出す。ついでさも当然のように私の隣に座り込む。そうだ、この人、引退したくせに自分専用のマグカップをアジトに置いて行ったままだったんだ。遊びに来る気満々だったんじゃないか。
「京花ちゃん、俺の分の紅茶も淹れてくれる?」
「いいですよ」
「ありがとー。お菓子開けていい?」
「いいですよ」
「ありがとー。俺と付き合ってくれる?」
「いやです」
「……おかしい」
この流れならイエス以外に何の答えがあったんだ、と言いたげな声が心底不思議そうな表情と共に私に向けられる。何の不思議でもない。私は胡乱な目を向けてやる。
「桐椰先輩、まだそんなこと言ってるんですか? その顔の怪我もまた彼女にフラれたんですか?」
「うん。別の女の子の手握ってたら叩かれてついでにフラれた」
「当たり前のこと過ぎて感想を持てませんね」
「だって相手の子、泣いてたからさー。そりゃあ手でも握って頭を撫でてあげるってもんだろ?」
「そんな所業を知っておきながら先輩と付き合いたがる人の気持ちがしれません」