「見せかけてるよ!? 見せかけてますけど! 俺はもっとこう……青春っぽいことしたかったんですよ! 放課後友達とモック行くみたいな!?」
「よく誘われてるんだから行けばいいじゃん。子分と」
「子分とね! 俺はいま友達と行きたいって言ったんですよ!」
「じゃあ雪と行けばいいじゃん。風邪、もう治ったって言ってたよ」
「ねぇちょっと待って、氷洞が俺とモックに行ってくれるとかいう選択肢ないの?」
「ない」
「にべもない!」
「上手いこと言ったと思ってんのかなめんな」
「ひょおどおおぉぉ」
えーんえーんと白銀は再びクッションに顔を埋める。本当に、仲間の前で見せる顔とのギャップがすさまじい。お湯を注ぎ終えた透明のポットを横から眺めて、苦くならないように見張る。
「ま、だから雪と行きなって。アイツなら付き合ってくれるから」
「……ところでさぁ、俺は一つ気になってることがあります」
「なに。面倒くさいから勿体ぶるのやめて手短に話して」
「お前言っとくけど氷なんかよりよっぽど冷たいからな! 氷のほうがまだ温かみあるからな!」
「言いたいこと終わった?」
「終わってません! 本題はこれからです!」
迷惑な目を向けてやると子犬のような目がこちらを睨んだ。みんなが“何人か殺ってる”と評するその目は私には“餌の貰い方を覚えた子犬”の目にしか見えない。因みに餌を与えたことはないので、正確には“世間的には餌を与えられてしかるべき”目だけれど。
「なんでお前雪斗とそんなに親密なの?」
「親密?」
「なにそのさっぱり心当たりありませんみたいな顔! 風邪引いた男の様子を知っておきながら親密じゃないって言い張る気か!」
「いや……親密って単語、遣いどころ微妙に違うよなぁと思って……」
「俺の質問に答えて!? お願い!」
ポットに触れると紅茶はまだまだ熱い。戸棚からマグカップを出して淹れる準備だけ先に整え始める。
「ねぇ! だって雪は俺が連絡しても素っ気ないのにさ! なんで雪斗は氷洞には風邪治りそうとか連絡しちゃってんの!?」
「親密度の違いじゃないの」
「ひょおどおお!」
白銀はクッションと一緒に膝を抱えてソファの隅で拗ね始めた。早く雪が来ないとあしらうのも面倒くさいな……。すると、カチャカチャという食器の音に混ざって、廊下を歩く音がする。白銀が例によってクッションを投げ捨てて座り直せば扉は開く。後輩なら何か声を掛けるはずだけど……、と顔を向けると、そこに立っていたのは後輩ではなかった。