崇津(たかつ)市立東高等学校、通称東高校。高校の治安自体は決して悪くなく、大半の生徒はごくごく普通だ。視界に溢れるのは黒い学ランと濃紺のセーラー服に身を包み和気藹々(わきあいあい)と楽しそうにお喋りをする生徒達。だから、今日も校内を練り歩く不良は正しく悪目立ちしている。


「アイツって中学のときから有名な不良だったんだろ」

「そうそう。だから青龍の百一代目なのに銀狼でもあって、すげー紛らわしい……」


 白銀(しろがね)の噂をしていた生徒が慌てて口を噤む。白銀が通りかかったからだ。でも白銀は彼等を(とが)めることはなく、無視して足を進める。通り過ぎた頃、背後では心なしか緊張で唾を飲む音がした。


「こぇー……今の目見たか? 絶対何人か殺ってるって……」

「しっ、聞こえたらどーすんだよ! つか隣の氷の女王もやべーよ……」

「氷の女王と今の青龍って付き合ってんの?」

「違うんじゃね? だって氷の女王って──」


 青龍のメンバーがいつも集うのは普通科棟の更にもう一つ隣、特別教室ばかり揃っている棟の三階。その中でも元々物理第二教室と名付けられていた教室が青龍専用の部屋になっている。部屋というにはどうにもお粗末で、せいぜい大きめのテーブルが一つとソファが二つ、青龍トップが代々受け継ぐ長ランを仕舞うためのロッカー、などなどがあるだけだ。必要なものが順々に揃えられましたみたいな教室なのだけれど、基本的に青龍のトップとそのトップが許した人しか自由に出入りすることは許されないというわけで、青龍トップはご満悦だ。なんだか威厳がある感じがするらしい。子供(ガキ)かよ、って感じだ。


「……ねぇ氷洞(ひょうどう)。俺の何が怖いんだと思う?」

「え、怖いって見せかけたいんじゃないの?」


 その青龍のトップは今日も今日とて拗ねたようにソファにうつ伏せに寝転がっている。拗ねている理由はその台詞通りなのだが、その台詞自体に驚いてみせる。熱湯が紅茶のポットに注がれる音がする中で、白銀はガバッとソファに手を付いて起き上がった。