その男はみんなに(おそ)れられている。


「目が何人か殺ってる」


 理由は例えばその目。深淵を覗いているのかと思ってしまうほど黒い濡羽色(ぬればいろ)の瞳は感情を映さない。お陰で見られるだけで氷点下に放り出されたかのような寒気が走るらしい。


「あの人には一生付いていくって決めたんだ」


 例えばその言動。ぶっきらぼうな言葉と冷たい表情は、言ってしまえばクールとただそれだけなのだが、どうやらそれは風格と似たようなものらしい。学ランの上着を翻し、まさに風を切って歩くその姿に惹かれない男はいない、といったところだ。その後ろには彼を慕う不良が付き従う。


「たった一回で……この人に敵うわがねぇって思った」


 ただ、何よりも男達を魅了したのはその強さなんだろう。相手が誰でも堂々と正面から挑み、なおかつ勝ち続けるその姿。百戦錬磨の姿の放つ貫禄はただものじゃない。

 それだけの賛美をうけてもなお、彼は何の自慢にもならないと言わんばかりに興味のなさそうな顔をする。


「興味ねぇよ。こんなところでトップにたったところで」


 敵対勢力からはそんなところが気に食わないと睨まれるが、仲間からは現状に甘んじない、どこまでも上を求める理想的なリーダーとして慕われる。



「いやだってさー! 不良のトップなんかなってどうすんだよー!」


 ──それが、彼の心底の本音だなどとは知らず。

 ソファに寝転んで嘆く彼に、外での威厳など欠片もない。憧れて真似する後輩がいるほどキメられた銀髪は寝転んでいるせいでぼさっと無防備に崩れている。足だってまるで駄々っ子のように投げ出している。そんな彼を視界の端に写しながら紅茶を啜った。


「…………」

「…………」

「……なぁ」

「なに」

「リーダーがこう言ってるのにかける言葉はないのか」

「不満なら辞めればいいのに今更実はヤンキーなんてなりたくなかったなんて言い出せなくて隠れて駄々こねてるのガキっぽいから慰めてほしいなら母性溢れる年上女性の前でやればいいんじゃないの」

「ひょおおぉぉどおおぉぉぉ!」