「え、あれ? もしかして有島さんのクラスに伝わってなかったっけ……」
「……伝わってた……かも……」
しれないです、と私の語尾は萎んでいった。そういえば担任の先生が何か言ってたような気がする。でもあんまりはっきりした記憶はない。
でも実際、生駒先生の言った通り、廊下からは「まー予備校までの時間潰しになったからいーじゃん」「普通に期末やばいんだけど」「てかこれってテスト範囲になるんだっけ」とわらわらと話声と足音とが聞こえてくる。
「折角なら、補習ってことにしようかと思って。あ、もちろん、分からないところ終わったら自由に帰って大丈夫だからね」
違うよ、先生。そうじゃないよ、先生。私は、生物のプリントなんてどうでもいいよ。
私と先生の二人っきりの空間は、瞬く間に侵食されてしまった。教壇の正面の席を陣取れたのはよかったけど、バラバラと席に着く他の人達のことが邪魔で仕方がなかった。
「せんせー、問題3からやって。早く借りたいから、俺」
「だったら来なきゃいいのにー」
「だってここ試験に出るって高木が──あ、やべ、高木せんせーが、言っててさー」
「いーじゃん、最初からやってよ、せんせー。これ終わったら塾行かなきゃだし」
「先生、私は普通に分からないから最初からやってほしい」
みんなは、そうやって、なんでもないような顔をして先生と喋れる。好き勝手先生に好きなことを言って、先生を困った顔にさせて「えー、でも、そうだなー、急ぐ人が優先かなあ」なんて配慮してもらって。