多分、恋の熱は残暑の暑さに勝ってるな──なんてポエマーに内心呟いて。


「どーしたの、香菜ちゃん」

「んー、んー、暑くなっちゃってー」


 ヒメというボディーガードのいない時に限って話しかけてくる倉中(くらなか)くんに、適当な返事をする。倉中くんは容赦なく正論を叩きつけるヒメのことが苦手だった。


「香菜ちゃん、どこ行ってたの?」

「職員室。この間の生物のプリント、出し忘れちゃっててー。生駒先生のとこに行ってきたの」

「あー、あれか。あれ難しくなかった? 俺半分も解けなくって」

「わかるー、私も。だから生駒先生に、半分できてないけど許してくださーいって言ってきちゃった」

「あ、ずるい。ていうか、それなら言ってくれたらさ、一緒にやったのに」


 いやいや、倉中くん。私と並ぶくらいおバカな倉中くんと一緒にやったって、何も解決しないじゃないですか。


「えー、ほんとに。じゃあそうしたらよかったかなー」

「そうだよ」

「ありがと。でも、ヒメが生物も得意だから。ヒメに教えてもらうから大丈夫だよ」


 圧倒的な強さで学年一位を獲得するヒメの名前を出すことを、私は心の中で必殺ヒメ攻撃と呼んでいた。大体の男の子は、ヒメの名前を出すとその笑顔を凍り付かせる。


 だって、クラスの男の子なんて、みんな子供っぽい。でもって、おバカだ。私だっておバカだし、私なんかにおバカ呼ばわれりされる筋合いのない男の子だってたくさんいるけど、だって、ヒメの隣にいると、大抵の男の子ってヒメよりおバカなんだなって分かるんだもん。それなのに一緒に勉強しようとか、意味わからないし、話題だってサッカーか野球かゲームのことしかなくてつまんないくせに。そういう男の子に、興味はない。