「子供だよな」


 昼休み、椅子に座って足を組み、机に頬杖をつきながら、急にヒメが呟いた。


「え?」


 その視線の先には、ロッカーの前で箒を振り回して遊ぶ男子がいた。


「クラスの男子が。三時間目、体育だったろ。更衣室に穴が開いてたとか言って騒いでて、小学生かよって」


 親友のヒメは、口が悪い。双子のお兄さんと一緒に育てば男三人兄弟と同じだ、と本人がぼやく通り、まるでその言葉遣いは男の子のようだ。姫城(ひめしろ)麗華(れいか)という可愛らしい名前とは裏腹に男の子みたいに恰好いいヒメが、私はとても好き。


「そんなこと言ってたんだ……」

「知ってたら穴から制汗剤でも吹き付けてやりたかったけどな」

「ヒメ……」


 でも、確かに、クラスの男の子は子供っぽい。休み時間の度に、小学生とか中学生のときと変わらないくらいギャーギャーと騒ぐ。その内容も、いまヒメが話したみたいに、女子の着替えがどうだとか、そんなのばっかり。現国の授業になったら、今度はこぞって文学のページを開いて、なんでもない単語から、そういう想像をして、にやにや笑ってる。子供っぽいというか、気持ち悪い、とさえ思った。


「そういえば、香菜(かな)生駒(いこま)先生が呼んでた」

「え?」


 素っ頓狂な声を上げる私とは裏腹に、ヒメは「うちのクラスで課題プリント出してないの香菜だけだって」と淡々と告げる。私の机には、提出期限を二週間近く過ぎた生物のプリントがある。