「そんなことあったんだ」
高校三年間を一緒に過ごしたはずのヒメは、全然気づかなかった、と目を丸くしてみせた。
「うん、まぁ」
「なんで今更」
「いやー……もう時効かなーって思って」
生駒先生の設けた期限は、四年間。生駒先生の設けた期限からは、もう五年。
「生駒先生かー。確か私達が高三のときに新任だから、五歳上?」
「そう。卒業するときに二十三歳だった」
「ちょうど今の私らか。他の先生より群を抜いて若かったもんね」
ヒメは紅茶を飲みながら頷いた。
「……ヒメはさー、やっぱり、恰好いいとか思わなかったの?」
「誰を? 生駒先生を?」
「うん」
「思わなかったなぁ……私、生物選択じゃなかったっていうのもあるし」
カリキュラムの都合で、ヒメは生物を履修したけれど、確かセンターでは物理をとっていた。文系なのにちょっと変わっている。
「というか、学校の先生が恰好よく見えたこと自体なかったし……」
「確かに、ヒメはずっと彼氏いたもんね。ていうか先生を莫迦にしてるタイプだったよね」
「……まぁ。でも、生駒先生、理性的っていうか、ちゃんと先生だったんだね。新任なのに」
なんか、女子高生に告白されたら、ラッキーって感じの先生もいるんじゃないの。──ヒメはそう付け加えた。