「……そんな遠回しなフり方、初めて聞いたんですけど」
「いや、そういうわけじゃ、なくて。……有島さんはこれから大学生になるから。今まで会ったことのない人と、たくさん出会えるから。高校と違って、自分と同じレベルの人達とたくさん出会うから。有島さんは、まだたくさんある出会いを知らないから」
「……だから結局、生駒先生よりいい人がいるとかいう、そういう話じゃないですか」
「……僕は、有島さんの先生だからね」
大好きな穏やかな声に諭されて、泣きたくなった。
「僕は、有島さんが卒業しても、有島さんにとって先生でいたいと思うから。有島さんには、いい先生だったなぁって思ってほしい。思い出すときは、自分を導いてくれた人としてというか、いや、自分でこう言うのは傲慢だけど、そういう風に思ってくれたらいいなと思うよ。ね、有島さん」
先生に呼ばれて顔を上げる頃には、目は涙でいっぱいだった。それなのに、やっぱり生駒先生は、私の我儘を聞いてくれることはなく。
「卒業おめでとう。大学でも、頑張ってね」
ちょっとだけ照れ臭そうに笑って、他の卒業生の群れに紛れこんでしまった。