「ヒメ、これ持ってて」

「ん」


 そう思った瞬間、ヒメにカバンを押し付けて、次の瞬間には、生駒先生の腕を掴んでいた。生駒先生は驚いて振り返ったし、相手が私だと分かった瞬間に、今度はどっちかいうとぎょっとした顔になった。


「有島さん……」

「先生、写真!」


 単語しか言わない私を、どう思っただろう。生駒先生は「あぁ、写真ね、はい……」とまるで義務みたいな返事をして、撮ってくれる人を探すようにあたりを見回す。


「先生、自撮りでいいじゃん」

「え、いや、それはねー……」

「ほら先生、もっとこっち来て」


 スマホをインカメラに変えると、生駒先生は苦笑いだ。そんなに私と密着するのが嫌なんですか、と言わんばかりにその腕を引っ張るけど、生駒先生は動かない。


「あ、新藤先生、すいません、ちょっと写真撮ってもらえますか」


 それどころか、手を挙げて、他の先生を呼んでまで、拒んだ。初老の新藤先生は、私と生駒先生がツーショットを撮ることに何の勘繰りもせず、「あぁ、いいですよー」とにこにこ笑いながら、私のスマホを手に取った。


「……生駒先生」


 私の細やかな文句も無視して、生駒先生は「ほら、有島さん、カメラ、カメラ」と下手くそな誤魔化し方をした。