それっきり、生駒先生と話すことはなかった。というか、合格した私が、高校に行く用事なんてなかった。卒業式まではただ家でのんびり過ごして、同じく合格した友達とご飯に行ったりカラオケに行ったりしていた。


 卒業式の日、久しぶりに生駒先生の顔を見た。生駒先生はどこのクラスの担任も持ってないし、別に人気がある先生というわけでもなかったし、誰に囲まれるでもなく、ただ他の先生達の中に紛れていた。


「ヒメ、合格発表まだなんだっけ」

「ああ、うん。だから後期の勉強がまだある」


 式を終えた後も、ヒメのいつもの不愛想な顔は変わらなかった。ヒメが国立に合格すれば、来年からも東京で一緒にいられる。そう思うと嬉しかった。


 じゃあ、生駒先生は?


 不意に、生駒先生のことが脳裏をよぎった。式で教員席に座っていた生駒先生は、さすがに校舎の外に出れば、生物選択の子達に頼まれて一緒に写真を撮っている。

 ヒメと違って、生駒先生は、ご飯に誘ってもカラオケに誘っても来てくれない。担任じゃないから、クラス会なんてやっても来ない。もう私は高校に行かないし、なんなら文系だし、生物の先生の生駒先生と、金輪際《こんりんざい》関わりなんてない。