「でも、僕だって、有島さんと同じ年のときは、有島さんの周りの男子と同じくらい子供っぽかった。今だってそう変わらない。ただ、教師として、社会人として振る舞わないとってなるから、大人っぽく見えてるだけだよ」
「……だからなんなんですか」
「……だからね、きっと、有島さんが二十三歳に──僕と同い年になる頃には、きっと、僕だってそんなに格好いい大人じゃなかったって気が付くよ」
ね、と生駒先生は念押しするけど、結局、だから何なのか分からなかった。だって、私が二十三歳になる時には、生駒先生は二十八歳だ。生駒先生がもっと大人になってるなら、全然問題ない。
「僕は、教師だから。大学四年間、生物の勉強をしてるから、有島さんよりずっと生物ができる。だから頭もよく見えるかもしれない。でも多分、僕が高校生のとき、有島さんより生物はできなかったし、今でも有島さんより……例えば古文とか、できないと思う。教師なんて、そんなものだよ」
「……結局、何が言いたいんですか、先生」
「だから、いつか有島さんは、もっといい人を見つけるよ」
──だから、なんだっていうんですか。
「そんなの、私が生駒先生を好きなんだから関係ないじゃないですか!」
生駒先生の穏やかな声が大好きなのに、その穏やかな声に懸命に畳みかけられている気がして、そう叫んで、生物教室を飛び出してしまった。