それだけじゃない。生駒先生を好きなのは、それだけが理由じゃない。先生がのんびりと教科書を読んでるときも、板書を間違えてちょっと狼狽えてみせるところも、みんなの試験の出来が悪くて自分の教え方に凹むところも、たまに白衣を着てポケットに手を突っ込んでぼーっと窓の外を眺めているところも、試験監督中に窓際で転寝してるところも、全部、全部、私は好きだ。
「あれはね、僕くらい年が近いと、生徒の気持ちも身近っていうか……」
「そんなに年が近いなら私と付き合ってもいいじゃないですか」
「あ、いや、そういう意味じゃなくてね……」
うーん、と先生は考え込んだ。困ったように、その野良犬みたいな黒い髪をかき混ぜる。
「……あのね、有島さん。有島さんの気持ちはとても嬉しいけどね」
「だったら」
「高校生の頃は、きっと、新任の教師が恰好良く見えるものだと思うんだ」
だから、そうじゃない──。そう言いたくて口を開こうとすると、生駒先生が再び手でストップをかけた。
「有島さんは、十八歳、だよね。僕は今年、二十三歳になった。……あ、五歳差か」
「……そうですけど」
「僕は大学を卒業した後だし、きっと有島さんの周りにいる十八歳の男子よりずっと大人に見えると思う。特に、女の子は精神年齢が高いから、有島さんみたいに落ち着いた人は、同い年の男子だと物足りないって思うことは多いと思う」
分かってるんじゃん、生駒先生。そうだよ、同年代の男子なんて、子供っぽいだけだよ。