「……先生」
「……あのね、僕は、新任だけど、有島さんより四つ年上だから」
「たった四つじゃないですか。うちのお母さんとお父さんは六歳違います」
「うん、だから、そういうのじゃなくて……僕は先生で、有島さんは高校生で……」
「あと一週間で卒業します!」
「いや……えっとね……高校生が、先生を好きになるっていうのはね、憧れみたいなものっていうか……」
「そんなんじゃないです!」
一生懸命にたどたどしく語られるそれが、ありきたりな説得というか、私を丸め込もうとしているように思えて、思わず声を荒げた。ああ、ほら、まただ。倉中くんとかいうどーでもいい人には可愛く笑顔で何でも言えるのに、生駒先生には、私はいつもこんな感じだ。
「私は、五月に先生が一緒にゴミ捨ててくれた時からずっと好きで……」
「あれは、教師としてしたことだから」
「でも他の先生だったらやった人探そうとしたり、クラスで報告したりとか、そういうことするじゃないですか」
大丈夫だよ、誰にも言わないから──あの時、一番安心したセリフだったと思う。中学生のときにも似たようなことがあったけど、その時は見つけた担任の先生は、クラスのホームルームで朝一番に報告した。被害者の私の悲しさを頼んでもないのに代弁して怒って、犯人捜しなんてしようとした。大迷惑だ。
生駒先生は、そういうことをしなかった。