やっと誰もいなくなったのは、いい加減図書室で自習する人さえいなくなる時間になってから。でもそれは、結局、学校から帰らなきゃいけない時間の十五分前だから、私が先生と一緒にいれるのは、あと十五分もない。


「有島さんは、他に分からないところはない?」

「……ない、です」

「そっか、よかった」


 それなのに、生駒先生はその時間を惜しむことはない。安心したように黒板を消して、その肩にチョークの粉が降り積もっていることに気づいて慌ててジャケットを脱いで、窓を開けてバタバタとジャケットを振って、「まいったなー」なんてぼやく。同時に、晩夏とはいえ、すっかり涼しくなってしまった秋風が舞い込んできて、頬を冷たく撫でた。


「三年生は、今が正念場だね」


 不意に振られた話題に「えっ」と小さく声を上げてしまった。生駒先生は「ん?」と首を傾げながら、窓枠に手をついたまま、顔だけ振り返った。


「ほら、もう三年生が残ってる部活もないし。受験の天王山──なんて、今時は言わないのかな? 夏休みも終わって、センターまで近いし」

「あ……あー……そう、かな……」

「四月は全然真面目に聞いてなかったのに、急に質問に来る子も増えたし。いや、先生としては嬉しいんだけどね」

「……そうですね……」

「生物は最後まで点が伸びるからね、復習忘れないでね」

「……はい」