「あ、香菜ちゃんもここ分かんなかったの? 一緒だー」


 遅れてやってきて、いそいそと隣に座って、私のプリントを覗きこむ倉中くんが、嫌いだ。どうせ私がいなきゃ生物の補習なんて来ないくせに! 私と先生の時間を邪魔した一人め!


 なんて心の声は出せずに「そうだねー、だから先生の授業、聞こ!」なんて笑うしかできない。


 生物の授業は、正直、つまらない。生駒先生は、別に授業が上手いわけじゃない。ただ、生駒先生を見て、声を聞いて、質問して、なんてことが堂々とできるだけの時間だ。ついでに、授業を真面目に聞けば、生駒先生は、こっちを見て授業をしてくれる。ただそれだけだ。


「例えば、ほら……これ授業でしたよな、多分。血液型はO型が劣性遺伝子で──」

「えー、O型って劣ってるってこと?」

「あ、あれぇ? 劣性ってそういう意味じゃないって説明しなかったっけ?」


 いい例え話だと思ったら前提問題が理解されていないせいで全然伝わらない。そんな、ちょっとだけ間抜けな顔をした先生が可愛かった。


 最初に設問3からやってほしいと言った男の子は、設問3が終わるとすぐに帰った。他にも「おっけー、こっからは分かるー」と言って帰った子もいた。でも「せんせー、ここ分かんないんだけどー」と塾に行きたくない一心で質問をして時間を稼ぐ人もいた。でも生駒先生は全部答えてくれるから、そういう人は帰らない。