「ここはすぐ、水で満たされる。万に一つの可能性があれば、鍵が水流であなたの所に漂って檻からは出られるかもしれないわね」
「ねえ、本気じゃないでしょう? ゴルレフ嬢も死ぬかもしれないのよ?」
「けれど水が満たされてあなたが窒息死するまで、あなたが無実を訴え続け、取り巻き令嬢達を制する意志を貫くなら、その薄っぺらそうな言葉を信用できると思うの」

 チムニア嬢の発言を無視して続ける。

「けれど、もしもチムニア嬢が生き延びてしまったら……やっぱりあなたの言葉を信じなくて良かったと思うのでしょうね」
「そんな……結局、死ねと言っているようなもの……」
「そうかもしれないわね?」
「私は……父が宰相も務めている公爵家の令嬢よ?」
「王女だって冤罪で死ぬ事もあのよ?」

 そう、前世の私のように。

「嘘でしょ……嘘……まさか私と心中でもするつもりなの!?」

 水が膝上を軽く越え始めたからかしら? チムニア嬢は、ようやく私の本気を信じ始めたみたい。

 鉄格子を握る白魚のような手が、目に見えてガタガタと震えだす。

「でも、あなたは冤罪じゃなかったわね。なら、妥当ね」
「ねえ! 私は公爵令嬢よ! 今すぐ水を止めなさい!」
「い・や・よ」

 ほら、やっぱり大人しく罪を認めるつもりはないんじゃない。

 クスクスと笑う。すると、それが気に障ったのかしら? チムニア嬢が、今度は顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。

「止めなさいと言っているでしょう! 認めてやるわ! ええ、そうよ! 私が全てやったの!」
「具体的には?」

 上着の内ポケットに隠してあった魔道具(小型録音機)のスイッチを入れる。

 私は人を殺すなら、自分が返り討ちに合う事も覚悟する。そして考え得る最悪に対し、最善の手を打つタイプよ。

「あなたが色々な男と関係を持つ、ふしだらな女だと嘘の噂を流したわ!」
「それだけ?」
「ワグナー嬢を脅して、パーティーであなたのドレスに飲み物をかけるよう仕向けて、恥をかかせようとしたわ!」
「それから?」
「学園であなたが虐められるように、他の令嬢達をけしかけた! 更にあなたの家に昇爵話が上がった時は、お父様にお願いして子爵のままにしていただいた! 伯爵位でなければザルハッシュ殿下の婚約者になれないから!」
「その点は有り難かったわよ? だって私、ザルハッシュ王太子の事が大嫌いだもの。他には?」
「ゴロツキを雇って、あなたを襲わせた! 貴族に嫁入りできないような体にしてくれと依頼したわ!」
「残念だけれど、証拠がないわね? どうやってチムニア嬢の言葉を信じたら良いのか……」
「証拠は私の部屋にあるの! 水が腰まできてるじゃない! 早く出しなさいよ!」
「そう。あなたのお父様の伝手かしら? 宰相を務めているくらいですもの。黒い伝手があっても不思議ではないわね?」

 ふと、国の中枢にいる王侯貴族って前世()今世()も似たり寄ったりか、興味が湧く。