「心春さん、良くお似合いです」

そう言って微笑むのは、まだ結婚したばかりの警察官・椿総司(つばきそうじ)である。

「……ありがとうございます」

顔を赤く染め、優しく微笑む総司とは対照的に引きつった笑顔を浮かべたのは、総司の妻となった降谷心春(ふるやこはる)改め椿心春だ。

心春と総司は、1日前に結婚したばかりである。しかし、心春には別の好きな人がおり、総司のことは赤の他人だと思っている。

心春が好きなのは、動物をこよなく愛する、動物学者のジョン・スタンフォードだ。

心春と総司は、所謂政略結婚である……と思っているのは、心春だけであるが。

「心春さん、今日も仕事があります。行ってきますね」

そう心春に伝え、総司は部屋から出ていく。心春は、総司の背中に向かって「行ってらっしゃい」と声をかけ、総司が家を出ていくまで部屋で立ったままでいた。

少しした後、心春は最低限の家事を済ませ、自室へと戻る。

「……ジョンさんに、会いたい……」

心春はただ1人、ここ……日本にはいない彼の名前を呼んだ。

(……いつか、ジョンさんと結婚出来たら……)

心春は、ジョンと結婚する様子を頭の中で想像した後、この先の総司との生活に不安を感じてしまう。

(……総司さんと、上手くやって行ける気がしない……いつか、離婚したいな……)