七月に入り、期末試験の最終日が終わった。誰もが十三科目もの試験に辟易して、最後の時間が終わると共にシャーペンを投げ出す。


「あー……疲れた」


 手ごたえはまあまあだ。でも前回の結果を見る限り、無事上位に入って授業料減免措置は貰えるだろう。答案用紙が回収されていくのを横目に筆記用具を片付ける。みんなは早速試験の打ち上げに何をするか盛り上がってる。私には関係のない話で、大仰に溜息を吐いて見せた。


「あーあ、友達が少ないと試験が終わったところでいまいち盛り上がりがないよね。桐椰くんはどーするの? 試験終わったからバッティングセンターとか行くの?」

「行かねーよ」


 五十音順に並んだ座席で、私の隣に座る桐椰くんはご機嫌斜めだ。顔を上げもしないその金色の髪に隠れた横顔に向かって首を傾げる。


「どうしたの? 出来が悪かったの? 気にすることないよ、古文が読めなくても生きていけるよ?」

「生憎古文は得意科目だよ」

「嘘、一番得意なの家庭科でしょ。一番シャーペン早く動いてたよ」

「うるせーなお前は!」


 あ、漸くいつも通り怒った。と思いきや、こちらを向いた桐椰くんは何かを躊躇うように口を噤んで、また私から顔を背けて片付けを始めた。先週、松隆邸に行って以来、桐椰くんは日々不機嫌だ。理由は知らない。松隆くんは察しがついてるらしいけれど、「放っておきなよ、そのうち戻るから」なんて言うだけで教えてくれなかった。お陰でここ最近は松隆くんが家まで送ってくれる。そう、桐椰くんはただ不機嫌なんじゃなくて私を避けている。「試験前で遥が早く帰るから飯作る」なんて台詞がどうにも言い訳がましい。


「ねー、御三家は試験終わったらいつも何してるの?」

「別に何も。駿哉は試験あってもなくても勉強してるしな」

「松隆くんは試験あってもなくても勉強してなさそう」

「……よく分かってんじゃねーか」


 ふん、と桐椰くんは鼻で笑った。今の台詞に笑うところなんてあったかな。


「桐椰くんは普段何してるの?」


 そして、そんな他愛ない言葉で手を止める。じっと眺めていると、その手はすぐに動き出すのだけれど。