「お前、まだ初恋こじらせてんの?」


 ぶっ、とオレンジジュースがサイドテーブル上にぶちまけられた。隣で読書していた駿哉が顔をしかめ、総が「図星はもっと綺麗にアピールしろよ」なんて嫌味を言いながら布巾を放って寄越す。ぺしゃっと頭に載った布巾を掴みながら顔が引きつった。


「てめぇ……」

「まさかそこまで本気だと思わなかったからさ。ちゃんと水拭きもしてくれよ」


 乱暴にグラスを置けば、テーブルを侵食していたオレンジ色の液体が弾けた。黙々とそれを拭いていると、「で?」なんて楽しそうな声が畳みかけて来る。じろりと目だけを向けた。声の通り楽しそうな顔が待っている。


「で? ってなんだよ」

「いや、だからどうしたのかなーと思って」

「どうもしねーよ。大体あれは好きとかそういうのじゃなくてちょっと気になったとかその程度……」

「その程度のために探し回ってんのか、すげぇなあ。ハンカチでも拾ってもらった?」

「お前に皮肉言わせたら右に出るヤツいねぇよな」


 舌打ちで返事をする。確かに、誰に何を言われなくとも、自分の中で答えは決まっている。総が悪魔みたいな笑みを浮かべながらからかってくるのも仕方がない……といえば仕方がない。


「ま、お前がそんなものこじらせてようがこじらせてまいがどーでもいいけど」

「話題振っときながらなんだよそれは」

「最近桜坂とどう?」


 ……何だと? 先程とは打って変わって至極純粋にそう訊ねてくる総に怪訝な顔をした。駿哉は顔を本から上げないままだ。本当にコイツは心底アイツに興味がないらしい。


「どうって……何が」

「BCC終わったら心境の変化でもあったかなと思って」

「どう変化すんだよ。ねーよ、何も」

「ふぅん……」

「……言いたいことあるなら言えよ。別に何も変わってねーだろ、俺は」

「いやあ、まあね」


 意味深な、含みのある言い方をしながら総は足を組み直す。駿哉が横から新たに水拭き用の布巾を差し出した。確かに俺が悪いけど手伝えよと顔をしかめてみせるが、駿哉の横顔は我関せずを貫いている。


「ただ、あれを見たら、まあ結構くるよなあと思って」

「……は?」