「帰るぞ」
「帰ったって飯田さんに言われなかったの?」
「駿哉がお前は生徒会室だってチクったに決まってんだろ。副島以外の教師に引き留められて遅くなったけどな」
嘘から出た真というかなんというか……。まぁ桐椰くんの素行を考えれば、職員室に来たときにここぞとばかりに注意しておこうという先生はいるのかもしれない。手を引かれて床に足をつけば、桐椰くんは鹿島くんを無視したまま生徒会室を出ていこうとする。
「俺が桜坂とキスするのがそんなに気に食わない?」
当然、そんなことをすれば鹿島くんには引き留められるわけで。ただ、分かりやすい挑発だったせいか、振り向いた桐椰くんは不機嫌そうな表情でこそあれ、怒りを露わにすることはなかった。
「気に食わねーよ。お前は俺達の敵だって言ってんだろ」
「へぇ、じゃああくまで御三家として怒るってわけか」
「つか、なんでコイツにキスすんの?」
冷然と言い放った桐椰くんは、普段の桐椰くんじゃないみたいだった。個人的な感情を問い質されても動じることはなく、ただ鹿島くんを睨むように見るさまは、まるで松隆くんみたいだった。鹿島くんは赤くなった頬を手の甲で冷やすのをやめ、私がさっきまで座っていたテーブルに片手だけついて体重を少し預ける。
「なんで、って。好きだからじゃ駄目か?」
「好きなヤツとキスすんのに目を開けるのかテメーらは」
「個人の自由だろ?」
「趣味が悪くて胸糞悪い。二度と見せんな」
埒が明かないと思ったのか、それともそれ以上鹿島くんと話したくなかっただけなのか、桐椰くんは私の手を強く引っ張ったまま、生徒会室を出ていく。当然それに連れ出されるように私も生徒会室を後にした。